河西祐史「ハイカーの話、トレイルの話」#02 テンゾ (Tenzo)

スルーハイカーは、実はロングトレイルではマイノリティだ。しかしうっかりするとスルーハイカー同士ばかりで仲良くし、狭い人間関係に陥ってしまう。ロングトレイルには、もっと本来の意味でのハイカーがたくさんいる。今回はその、セクションハイカーの話。

テンゾ(Tenzo)との出会い

テンゾと会ったのはノースカロライナかテネシーあたり、アパラチアン・トレイル(AT)の南の方だった。彼は朝食の席で「それで、キミは日本人なのかね?」と話しかけてきたのだ。ATには「シェルター」と呼ばれる簡易的な山小屋がたくさんあり、シェルターはよくピクニックテーブルを備えていて、食事時ともなれば順番待ちになる…ああ、野外でイスとテーブルが使えるというのは、なんと素晴らしいことか!
そしてそこはアメリカ、食事の席は社交の場でもあるのだった。見知らぬ者同士は自己紹介して挨拶し、親交を深めるのがマナーなのだ。だから、話しかけられたこと自体は驚くことじゃない。
しかし「そうだけど、どうして?」と聞き返すと彼は「キミのラップトップを見たんだ。すごいねあれ」と答えたので笑った。そんな控えめな反応は初めてだ。
自分はこの時、SONYのVAIO type Pを運んでいた。ジーンズの尻ポケットに入る、という衝撃的な広告で世に出た長細いノートPCだったが、本体が600gもないのに充電アダプタが200g近くある、時代の一歩先を行ってしまったソニーらしい残念な製品だった。それはともかく、自分がシェルターなどで日記でもつけようかとコレを開くと、近くの誰かが「おっ、スゲーな」などと言って寄ってくるのである。そして「持っていいか?お〜軽い!これなら運べなくもないな!なあ、俺はニホンゴの入力に興味があるんだけど、ちょっとやってもらえないか?どうやって打つんだ?おお、なんだこのキーボードは!なあ、どうやって使うの?えっ?アルファベットでもできる?どういうこと?とにかくニホンゴ出してみせてくれ。おおおお〜なんだこれ!ヘイみんな!来てみろよ!」とかなってしまい日記どころじゃなくなるのだ。

この記事の作成者は

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする