河西祐史「ハイカーの話、トレイルの話」#01 モーホーク(Mohawk)

映画「ロング・トレイル!」の舞台にもなったアパラチアン・トレイル

アメリカ・アパラチアントレイル(AT)で出会ったスルーハイカー

2010年、AT(エーティー)を歩いていた時の話。自分はモーホークというスルーハイカーに会った。
正確には、会った時にはまだ「モーホーク」じゃなかった。ヤツとはスタートもゴールもほぼ同じで、何度も追い越し追い越され、仲良くチームを組んで歩き、街に降りてはパーティと称して大騒ぎし、別々に歩いては再会を祝して乾杯し…ATを歩いた約半年の間、自分と最も親しくしたハイカーと言ったらモーホークだろう。
日本で言うモヒカン族とその髪型は、アメリカではモーホークと呼ばれる。アクセントは最初のモで、あの髪型にしたら大体このアダ名になる。日本では「コング」と呼ばれている、特攻野郎Aチームの黒人の大男(演ずるのはMr.T)も、アメリカでの呼び名はモーホークだ。
アパラチアントレイル、通称ATは全長約3,500kmの超ロングトレイルである。「野外を歩いて、キャンプして、また歩く」のがアメリカのハイカーだが、ATを端から端まで歩こうと思うと数ヵ月はかかる。この「スルーハイク」は近年、もう一種のお祭り騒ぎ化していて、もちろんストイックに自然と向き合うハイカーも多いが、逆に「せっかく一般社会を離れるんだから、いっちょモヒカンにでもしてみるか」とかいうヤツも必ずいる。自分が歩き始めてしばらくしたころ、同じ方向に歩いていてすでに親しくなっていたハイカーの1人が、アタマを刈って周囲の爆笑をとった。そしてヤツは「モーホーク」になったのだった。

ヤツとの思い出は数え切れない。歩き出して2日目の夜、まだATが、スルーハイクがどんなものかわからず不安にくれたハイカーたちがキャンプサイトに集まり、焚き火をおこして雨でずぶぬれになったブーツを乾かしながらこの先のことを話し合った。たぶんそれがヤツを認識した最初だ。2週間もすると、我々は道路の近くでキャンプしたとき、面白がってわざわざピザのデリバリーを携帯で注文し「デカいのシェアしようぜ」と言い合うくらい仲良くなっていた。真夏のある日には「こんな暑いのに山なんか歩いてられるか!」と降りた街でレンタカーを借り、ヤツを入れて4人で7~8時間もドライブして海へ行った。ヤツの誕生日には街で仲のいいハイカーが大集合し、我々ははしゃぎすぎてホテルの部屋を完全に破壊してしまい騒動になった。エピソードは尽きないが、実は自分が「ATで、モーホークってハイカーと仲良くなってね」とヒトに語るとき、それはヤツが自分と一緒にいなかった時の話になる。

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