河西祐史「ハイカーの話、トレイルの話」#07 シエラネバダの「メインテナー」

シエラネバダ山中の、石で囲って崩れにくくしたトレイル。一番手前の石は「ウォーターバー」で、写真の左側に水を逃がすようになっている

2014年、PCTを歩いていた時の話。
シエラネバダ山中では、PCT(パシフィック・クレスト・トレイル)JMT(ジョン・ミューア・トレイル)がほぼ重なる。ここで自分は「メインテナー」と会った。
実は2012年にも同じあたりで作業している一団と会っていて、少し質問させてもらった。前回も今回も彼らは数人1チームで、スコップやツルハシ、ノコギリ等をトレイルの側に置き、何やら作業していたのだ。彼らがトレイルメンテナンスを専門に行う短期労働者で、給料をもらって作業しているということまでは前回聞いていた。
今回はまだ準備中のようだったので、ヒマそうな1人のヒゲもじゃを捕まえ、立ったまま話をした。自分としてはもう定番の、日本から来たんだけど質問していいかという流れだ。この聞き方は大変便利で、大概の人間が答えてくれる。ヒゲは何年か続けてこの仕事をしているらしく、かなり詳しく教えてくれた。
「それで、キミたちは『メインテナー』なんだね?」
「まあそうだな。正確にどう呼ぶのかは知らないが、俺たちはそう言っている」
「『レンジャー』じゃないの?」
レンジャーの仕事には、トレイルメンテナンスも含まれる。
「違うんだ。ほら、レンジャーは制服着てるだろ」
レンジャーは、National Park Service(国立公園を所管)やU.S.Forest Service(国有林)など所属する組織のワッペンがついた制服を着ている。しかし、彼らは見事なまでに薄汚い私服だった。Tシャツにネルのワイシャツ、ジーンズやカーゴパンツといった出で立ちで、Tシャツなどは「元は白かった」のが見てとれるくらいだ。
「制服くらい、貸してもらえないの?」
「う~ん、俺たちは、国立公園とかで働いているわけじゃないからなあ」
「どういうこと?何て言うか、キミたちの給料はどこが出してるの?」
「俺たちはな、『インターエージェンシー』に雇われているんだ。給料もそこから出てる」
「ええっ?そうなのか!」
国立公園はそれぞれが独自の予算と人員を抱えているし、国有林とはそもそも省庁が違う(国立公園は内務省、国有林は農務省)。しかし自然が豊かな地域では、当然いくつもの保護区が隣り合っていたりする。我々ユーザーの視点からすると「歩いていると隣の保護区に入ってしまう」ようなエリアでは、複数の地域に対して通用する入場許可証(permit)が発行される事がある。これがインターエージェンシーで、場所によってはインターエージェンシーのビジターセンターが置かれていたりする。
悪名高きJMTのパーミットは、このシステムで発行されている。南北に走るJMTに北側からアクセスすると、ハイカーはまずヨセミテ国立公園に入ることになり、公園内でパーミットを求めることができる。しかし実は、JMT南端近くの道路沿いにはインターエージェンシーのビジターセンターがあり、マウント・ホイットニーの登山やJMTのパーミットを発行している。
言われてみれば、自分はそのセンターがどんな予算で運営されているのか考えたことが無かった。ヨセミテの様子から、インターエージェンシーというのはバーチャルな組織で、国立公園の職員がその業務を行っているようなイメージでいたのだ。彼の説明の通りなら、インターエージェンシーも独立した組織として予算と人員を持つことになる。
「じゃあ、自分が所属する省庁は知らないんだね?」
「そうだな。俺たちはパートタイマーで、公務員じゃないし」
パートタイマーというのは通常、日本で言うアルバイトのことだ。しかし、この場合・・・
「それそれ。キミら、夏だけ働くって聞いたけど」
「うん。だいたい5月から10月くらいかな」
シーズナル(季節労働)なのだ。
「5ヵ月って、山に通うの?」
「泊まってるんだ。近くにレンジャーステーションがあるの、知ってるか?」
「地図で位置は知ってる。JMTから外れてるから、行ったことないけど」
「あの中にバンクベッド(多段ベッド)があってな。向こう数日はそこだ」
「テントにコットとかじゃないのか」
コットというのはフレームに布を張った簡易ベッドのことで、建物の建設に制限がある国立公園などでは、なんと言うか運動会に使うような頑丈なテントに、壁も屋根と同じ頑丈な布を張り、コットを仕込んだものが時々見られる。こういったテントを使った観光客向けの宿泊施設もある。
「そういうところもある。シエラのエリア内に、何ヵ所か俺たちが泊まれるところがあるんだ。作業が済んだら、次の作業に近い施設に移動する」
「街に降りないの?」
「休日は1日とか2日なんだ。降りても良いけど、俺はほとんど山の中だね」
「食事やシャワーはどうしてるの?」
「食料はレンジャーたちが、ラバで運んでくれる」
「あ、あの『キャラバン』は、キミたちの食料を運んでいるのか!」

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