ハイカーインタビュー 俳人『黛まどか』さん ~本当にキミが歩きたいと思っているなら“いつか”ではなく“今”しかない

ハイカーへのインタビュー企画の提案を頂き、どうすべきかを考えながら数か月。一番最初にどなたにご登場頂こうか悩んでいた。

そんな時、山形ドキュメンタリー映画祭プロジェクト・マネージャーの高橋さんから山寺の俳句イベントに参加しないか声をかけて頂いた。山寺芭蕉記念館創立30周年イベントで、俳人の黛まどかさんがご来県されるのだ。

黛さんは、サンティアゴ・デ・コンポステーラのフレンチウエイ800kmを踏破されて以降、釜山からソウルまでの500kmを踏破されたり、2017年には四国遍路1400kmを踏破された経験もある。

早速、高橋さんにお願いし、お話を聞かせて頂くことになった。

 黛さんの講演では、俳句に「自然」というキーワードが深く関わっていることに気づかされた。俳句は、行きつ戻りつしながら少しずつうつろう日本の自然を詠む。花鳥風月…小さな命を愛で、敬う。日本人にはこうした自然観が備わっているそうだ。

これは、ハイカーが自然の中を歩くさまと共通する点であると思う。しかし、黛さんがおっしゃる通り、例えば欧州では季節のうつろい方が日本と大きく違う。海外の季節の変化は、線で引いたようなはっきりとした境目があるように思える。

 改めて俳句とハイクに目をむけると非常に興味深い。例えば、俳句の無駄な言葉をそぎ落とした、5:7:5の僅か17音に収めるところなどは、無駄な荷物を削ぎ落すウルトラライトウエイトのハイカーのようでもある。

 講演の後、インタビューをさせて頂いた。まず、俳人である黛さんが、なぜ歩くことに興味を持たれたのか気になった。すると、意外にも1冊の本との出会いがきっかけだったそうだ。その本とは小説『アルケミスト』(パウロ・コエーリョ著)。

当時、多忙を極めていた黛さんはひどい胃痛に悩まされていたが、この本を読み終えると胃痛がすっとなくなっていたそうだ。

『アルケミスト』をあるテレビ番組で愛読書として紹介すると、訳者である山川紘矢さん、山川亜希子さんが偶然にもその番組を観ていた。さらに初来日したパウロ・コエーリョと運命的に出会う。「いつかは私も歩いてみたい」そんな思いをパウロ・コエーリョに伝えると、パウロが言った。「本当に君が歩きたいと思っているなら、〝いつか〟ではなく〝今〟しかない」。黛さんは、意を決してレギュラー番組を全て辞める段取りをした。実際にサンティアゴ・デ・コンポステーラを歩き出すまで実に3年の月日がかかった。そこまでして黛さんを突き動かしたのは、現存する奥の細道は僅かな部分でしかなかったからかもしれない。1、000年前の道が現在も残り、1,000年前の人々と同じ道のりを歩くことができるサンティアゴ・デ・コンポステーラに惹かれたのは、今は無き奥の細道をサンティアゴ・デ・コンポステーラに重ね合わせていたのではないだろうかと思う。

以降、2017年には四国遍路1,400kmも歩かれた。区切って歩くのではなく一気に歩きとおすことで、足し算ではなく掛け算になる。苦労して歩くからこそ人との出会いにも敏感になると黛さんはおっしゃっていた。僕もスルーハイカーとしてトレイルを歩いている。一気に歩くスルーハイクだからこそ見える景色、見えない景色がある。だからこそ運命に身をゆだねることができる。ここでの出会いはどれか1つでも欠けていたら出会わないという強烈なドラマ性があるのだ。

 そんな盛り上がりを見せた出だしだったが、他のインタビューアーもいたこともあり、残念ながら黛さんにお聞きしたくて用意した質問の一部しか聞けないままタイムアップとなってしまった。制限時間を少しオーバーしたのだったがご厚意で最後に1つだけ質問に答えていただいた。

「歩きながら俳句を詠まれることはあるのでしょうか?」(斉藤)「歩きながら詠めればいいのですが、歩いているときは全くそんな余裕がなく、気づいたこと、ひらめいたことをメモしておきます。後でメモを見て思い出しながら詠むんですよ」と笑顔でお答えになった。

その姿をみて感じた。黛さんは俳人でありハイカーであるのだと。

 僕もこれから歩くトレイルで、ハイクしながら俳句を詠んでみたいと思った。無駄な言葉をそぎ落とし5:7:5に言葉を収め余白を楽しむ。ハイク&俳句、もしかしたら自然の中にどっぷり浸かる僕にはピッタリなのかもしれない。

プロフィール

©MPd  F8 PHOTO STUDIO

黛まどか(まゆずみまどか)

俳人。神奈川県生まれ。2002年、句集「京都の恋」で山本健吉賞受賞。1999年にスペインのサンティアゴ巡礼道、2017年に四国お遍路を踏破。「歩く旅」をライフワークとする。2010年より1年間文化庁「文化交流使」としてパリを拠点に欧州で活動。2017年よりテレビ朝日・BS朝日「あなたの駅前物語」の語りと俳句を担当するなど、幅広く活躍中。現在、「日本再発見塾」呼びかけ人代表、北里大学・京都橘大学・昭和女子大学客員教授。「公益財団法人東日本鉄道文化財団」評議員。岐阜県大垣市「奥の細道結びの地記念館」名誉館長。著書に句集「てっぺんの星」(本阿弥書店)紀行集「奇跡の四国遍路」(中央新書ラクレ)他多数。今年12月にはパリで四国遍路の講演を行う予定。

文/斉藤正史

山形県上山市在住。ロングトレイルハイクの普及及び、NPO法人山形ロングトレイル理事としてロングトレイルを造る活動を続けている。2005年アパラチアントレイル以降、2013年までにアメリカ三大トレイルを踏破し、日本人2人目のトリプルクラウナーとなる。

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